看護記録の書き方のキホン

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看護記録の書き方の実例 急変時の対応

事例: 患者名 Y氏 77歳 男性

 

疾患名: 心不全、陳旧性心筋梗塞、狭心症

 

家族構成: 妻と二人暮らし

 

経過: 
3年前に心筋梗塞のため、PCI(経皮滴冠動脈血行再建術)を施行。
その後は、外来通院で様子を見ていたが、内服薬を処方されるも飲み忘れることが多く心不全が悪化し、入退院を繰り返していた。
10日前に心不全が悪化したため入院したが、症状が改善したため、近日中に退院の予定だった。

 

インシデント発生状況:
症状改善に伴い、安静度の制限はなく、内服薬の治療を継続していた。
退院についての説明も終わり、翌日の退院を待っていた。
16:00に訪室し声をかけたが返答がなく、バイタルサインを確認。
意識がなく、胸骨などに刺激を加えたが反応がなかった。
左右の頸動脈は触知できず、心臓マッサージを開始した。

悪い記載例

〇月〇日
16:00 部屋を訪室し、本人に声をかけると返答はなかった。
意識レベルV-300.
自発呼吸なし。
右頸動脈触知できず。
応援を呼び、心臓マッサージを開始した。

 

16:03 医師2名訪室。
バッグバルプマスク開始。
モニタ装着。
児童血圧計装着。

 

16:05 除細動実施。
実施後、心臓マッサージ継続。
点滴ルートを確保。
B医師気管内挿管実施。挿管チューブ8F、20cmで固定。
バッグバルブマスクによる人工呼吸継続。

 

16:07 DC実施。モニタ上HR30台、血圧50台。

 

16:10 家族に連絡。
    A医師ボスミン1A(アドレナリン)静注、オリベスK(リドカイン塩酸塩)開始。

 

16:12 カコージン(ドバミン塩酸塩)開始。HR30〜40台。

 

16:20 血圧、70/40mmHg。カコージン増量の指示あり実施。

 

16:30 意識レベルV-300

 

16:35 集中治療室に転出。

 

16:50 家族が病院に到着。

 

17:10 主治医から家族に現在の状況の説明をした。

修正が必要な場所

@ 発見される前の状況を記載します。
  会話をした内容を省略せず、そのまま記載すると、患者さんの状態がわかりやすくなります。

 

A 意識レベルは、実施したこと、観察したことをそのまま記載したほうが状況が分りやすいです。

 

B 訪室した医師名、医師に報告した内容を記載します。

 

C 除細動を実施した場合は、除細動を実施した医師名、通電圧、実施後の心電図モニタの状況を記入します。

 

D 点滴ルートを確保した場合は、点滴ルートを確保した部位、実施者、薬品名、点滴速度を記載し、指示を出した医師名の記載もします。

 

E 血圧は、「〇〇台」という曖昧な値では記載しません。

 

F 家族に連絡をした場合、誰が誰に連絡をしたのか、説明内容や会話など具体的な記載をします。

 

G オリベスK、カコージンの指示を出した医師名の記載、具体的な指示内容の記載をします。

 

H 意識状態のほかに観察した内容の記載もします。

 

I 集中治療室に転出した場合は、移動中の状況や引継ぎの状態、入室時間の記載をします。

 

J 家族が病院に到着した際の、家族への説明、対応した内容の記載もします。

 

K 主治医から家族への説明の際、同席者の記載、家族の反応なども記載します。

良い記載例

〇月〇日
10:00 「明日退院だし、苦しいところはないですよ。」
退院後の生活について注意点を説明すると、
「塩辛いものがだめとか、薬を忘れずに飲まなきゃいけないとか分っているけど、
なかなか守れないんだよ」といいながら、床頭台の中を整理している。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
15:20 トイレからでてきたところで、
「トイレのあとは、胸が苦しいとかありませんか。」と声をかけると、
「胸は苦しくないしかわらないよ。」といい、部屋に歩いて戻っていった。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:00 容態観察のために訪室し、「Yさん、変わりないですか。」と声をかけたが返答がなかった。
バイタルサインを確認したが意識がなく、鎖骨部分を叩いたり拳で胸骨を刺激したが反応がなかったため、緊急呼び出しボタンを押し応援を呼んだ。
自発呼吸なし。
左右頸動脈は触知できなかったため、心臓マッサージを開始した。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:30 主治医A医師、循環器科B医師に、2〜3分前訪室したところ意識がなく、
頸動脈が触れず、自発呼吸がない状態を発見したことを報告した。
C看護師が口腔内を確認し、バッグバルプマスクによる人工呼吸を開始した。
D看護師は、心電図モニタと自動血圧計を装着した。
血圧・酸素飽和度は測定できず、心電図モニタ上不規則な波形が見られた。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:05 A医師は、〇〇J×1回除細動実施。
実施後、モニタ上不規則な波形が見られた。
A医師は心臓マッサージを継続して実施した。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:06 B医師気管内挿管実施。挿管チューブ8Fr.20cmで固定し、C看護師がバッグバルブマスクを接続詞人工呼吸を継続した。
B医師は、右前腕に〇〇Gで血管確保し、ヴィーンF(輸液)500mLを〇〇ml/時で開始した。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:08 A医師は、A医師は、〇〇J×1回除細動実施。
モニタ上HR30〜40台、洞調律波形、血圧56/30mmHg、SpO2 100%。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:10 A医師ボスミン1A静注、A医師の指示でオリベス〇mL/時で開始。
D看護師は自宅時電話をして、妻に「〇〇時ごろYさんの状態が急に悪くなり、
現在対応していますが、詳しい状態の説明と、今後の対応についての説明をしたいので、
至急病院にきてください。」と連絡した。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:12 A医師の指示で、カコージンを〇〇mL/時で開始した。
モニタ上HR30〜40台で経過。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:15 血圧66/36mmHg、HR48回/分、SPO2 100%
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:20 血圧70/40mmHg。
A医師から、カコージン〇〇mL増量の指示があり、変更した。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:25 血圧70/38mmHg、HR50回/分、SpO2 100%
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:30 血圧80/40mmHg、モニタ上HR50台で経過。
呼名反応なし。瞳孔〇〇mm大、左右差なし、瞳孔反射あり、SpO2 100%。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:35 A医師がバッグバルブマスクで人工呼吸を実施し、集中治療室に移動。
移動中HR50台/分、SpO2 100%。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
16:50 妻が病棟に到着。
集中治療室に移動したこと、患者への面会や医師からの説明は、
集中治療室で行うことを説明し、集中治療室へ案内した。
 看護師〇〇

 

−集中治療室での経過記録−

 

〇月〇日
16:55 集中治療室入室。血圧78/40mmHg、モニタ上HR50台。
呼名反応、痛覚反応なく、意識レベルV-300.
瞳孔〇〇mm大、左右差なし、瞳孔反射あり。
ヴィーンF500mL〇〇mL/時、カコージン〇〇mL/時、オリベス〇〇mL/時で継続。
 看護師〇〇

 

〇月〇日 
17:10 主治医A医師から妻に、病状と今後の対応について説明した。
説明内容は、医師経過記録参照。
説明後、妻は「よろしくお願いします。」といい、質問はなかった。
循環器科E医師、B看護長、G看護師が同席した。
 看護師〇〇

記載上の注意点

急変の一連の対応として、状況の説明までを記載する必要があります。

 

急変時の記録は、急変する前からの状態を詳細に記載しなければなりません。
急変前に患者さんと会話をしたり、患者さんの行動を観察したのであれば、
患者さんの行動や言葉をそのまま記載するなど、客観的な内容を記載します。

 

実施した処置の内容や家族への連絡、病状や今後の対応について説明した際の記録は、
「誰が(誰の指示で)」、「具体的な指示または説明内容」、「誰に(妻や夫、子など)」を必ず記載します。

 

患者さん急変発見の際の医師への報告は、主治医に対して行う報告は、発見時の状態のみの報告でよいですが、
主治医以外の医師に対して報告する場合は、
疾患名、患者さんの状態、急変時の対応を含めた報告が必要です。

 

家族に連絡をするときには、連絡をした看護師名、連絡した会話の内容も記載します。
状況がはっきりしない中で、憶測や可能性で家族に説明をしません。
急変した事実と今後の対応について相談したいことを伝えます。

 

家族への説明をした医師の他に、同席した職員名があればその職種名、名前、説明をした時間も記載します。

 

医師が説明した内容は看護師は記載しません。
医師が説明した内容は医師が記載し、看護師が説明した内容は看護師が記載します。
重要な説明内容であるため、表現の違いが発生すると、問題が生じるからです。

 

家族からの質問や医師とのやり取りはメモを取り、看護師から医師に情報を提供します。
医師から説明が終わり、看護師が補足説明した内容は、看護記録に記載します。
説明を聞いているときの患者さんの家族の反応や、言葉なども看護記録に記載します。