看護記録の書き方の実例 褥瘡発生
事例: 患者名 S氏 55歳 女性
疾患名: 右進行乳がん
家族構成: 一人暮らし
経過: 右乳房の腫瘤には一年前から気付いていたが、医療機関は受診せず。
自宅にて様子を見ていた。
今回歩行時に息苦しさがあり、自宅で動けなくなった。
すぐに軽減したが、以来、倦怠感が強くなったため近医を受診。
当院に紹介され、入院する。
入院時より骨転移、右胸水が認められた。
インシデント発生状況:
右進行乳がんによって歩行時の息苦しさと右上肢の浮腫が出現していた。
仰臥位で過ごすことが多く、褥瘡発生に至る。
* 自力で体位変換はできるが、痛みと低栄養のため、このままでは褥瘡改善が不可能な状況。
体圧分散寝具への変更や体位変換など、今後の褥瘡ケアについて
看護師だけで計画を立案するのではなく、S氏に同意を得ながら一緒に計画した。
悪い記載例
褥瘡発生
S: そうなの、痛いと思った。でも、上を向いているのが一番楽なの。
O: 臀部痛の訴えあり。褥瘡発見。滲出液少量あり。
日中仰臥位が多い。側臥位になると苦しそうな表情となる。
Alb:2.1g/dl
A: 褥瘡の発生あり。栄養状態も思わしくなく、定期的な体位変換などの褥瘡ケアが必要である。
P: 体位変換の必要性について説明する。
修正が必要な場所
@ いつから臀部痛があるのか不明です。患者さんから聞き出し記載します。
A 褥瘡部の深さ、滲出液の量、サイズ、炎症/感染の有無・肉芽状態など、評価をして記載します。
B 「苦しそうな」という表現は曖昧です。具体的に、客観的に書きます。
痛みの状況も具体的に記載します。
C 栄養状態の指標としてアルブミン値を記入していますが、何日の値なのかが記載されていません。
D 褥瘡発生の原因として、上腕部から右胸部にかけての痛みがあり、
動時間同一体位による圧迫や低栄養状態、皮膚の状態などが考えられますが、
その情報が十分ではありません。
E その後、褥瘡に対してどのようなケアを行ったのかが不明です。
F 褥瘡発生に至る現状の分析をし、今後の看護ケアの方向性を記載します。
G 患者さんへ体位変換の必要性について説明をするときには、
具体的にどのように体位変換を行うのか、
患者さんがどのように計画に参加していくのかを明らかにし、記載します。
良い記載例
褥瘡発生
S: そうなの。痛いと思った。ひりひりしているの。でも上を向いているのが一番楽なのよ。
O: 今朝から臀部痛の訴えあり。右臀部に真皮までの深さの褥瘡(1.8cm×1.8cm)を発見する。
漿液性の滲出液が下着に付着している。
肉芽はピンク色。皮膚は乾燥している。
d2 e3 s3 i0 g1 n0 p0 合計d2-7点
褥瘡部は、ハイドロコロイド材(デュオアクティブET)を貼付する。
日中仰臥位で過ごし、自力で側臥位に体位変換しても5分ほどで仰臥位に戻っている。
体位変換時に右上腕から右胸にかけて鈍い痛みを訴え、
眉間にしわを寄せながら身体を動かしている。
仰臥位では苦痛表情なし。
痛みについてはオピオイドを内服中。
右肩から上腕部にかけて腫脹あり。
左手に腫脹なし。
〇月〇日のAlb値は2.1g/dL
A: 乳がんにて、右上腕部に浮腫が出現。
体動時には右上腕部から右胸にかけて痛みを訴えている。
自力体位変換はできるが、痛みのため仰臥位で過ごすことが多い。
そのため、長時間にわたり同一部位に持続する圧迫が加わり、
右臀部に褥瘡が発生したと考えられる。
現在、栄養状態が不良であり、持続する圧迫が除去されないままだと
今後褥瘡が悪化する危険性がある。
本人も自力体位変換の必要性を理解し、行おうとしている。
しかし、体位変換時に右腕上部から右胸部にかけての疼痛があり、
効果的に行うことができない。
疼痛コントロールと共に、本人と体圧分散寝具の使用や体位変換方法を相談しながら、
効果的な除圧分散寝具の使用や体位変換方法を相談しながら
効果的な除圧を行い、褥瘡が悪化しないように褥瘡対策ケアを行っていく。
P: 褥瘡状態の観察を毎日行い、疼痛コントロールについては医師と確認する。
除圧のための体圧分散寝具の使用や体位変換方法について、
患者と共に計画を立案する。
看護師〇〇
記載上の注意点
褥瘡発生では、患者さんがどのような危険因子を持っているのか、
どうして褥瘡発生に至ったのか、原因を十分にアセスメントしていく必要があります。
褥瘡発生に限らず、原因を分析することは大切で、
患者さんの表情や言動、全身状態など観察した情報(S:O)を根拠に、
なぜ、このような状態になったのか導き出し、記録していく必要があります。
なぜ、褥瘡が発生したのか、原因を分析し、
今後考えられることを記述します。
体圧分散寝具への変更や体位変換など、
看護師だけで計画立案するのではなく、
患者さんに同意を得ながら、一緒に計画に参加したことを記載します。
* 痛みの程度を聞き出すときには、
いつから、どこが、どんなときに、どんなふに、
どのくらい痛いのかなどの視点で情報収集を行い、
記録すると分りやすいです。
「いつから」
例:昨日から、一週間前から
「どこが」
例:腹部、足、腰・・
「どんなときに」
例:常に、寝返りをすると、立ち上がると・・・
「どんなふうに」
例:重苦しい、突っ張るように、針で刺されるように、しびれるように・・・
「どのくらい」
例:眠れないくらい、あるけないくらい、じっとしていられないくらい
* 褥瘡l状態を評価するスケール(DESIGN-R)
D 深さ、E 滲出液、S 大きさ、I 炎症/感染、G 肉芽組織、N 壊死組織、P ポケット を評価します。
重症度の分類としては、軽度はアルファベッドの小文字、重度はアルファベッドの大文字で表します。