看護記録の書き方のキホン

看護記録の書き方の実例 転倒事故発生

事例: 患者名 T氏 77歳 女性

 

疾患名: 深部静脈血栓症

 

経過: 
一ヶ月半前より左下肢腫脹、圧痛あり。
市販の外用薬を使用し様子を見ていたが、下肢の痛みで歩行困難となり受診。
深部静脈血栓症との診断で入院となる。
入院後、ヘパリン点滴治療を開始。
数日前から抗凝固薬の内服治療へ変更。

 

インシデント発生状況: 
入院前のADLは自立していたが、左下肢痛により歩行困難となってから伝い歩きをする状態であった。
トイレ歩行時は、ナースコールで知らせるように説明し、看護師の介助でトイレ歩行をしていた。
〇月〇日19時、同室のS氏より、「T氏が転んでいます。」とナースコールあり。
訪室すると、T氏がベッドサイドの床に正座し、座り込んでいる状態であった。

悪い記載例

〇月〇日 

 

19:00 ナースコールあり。

 

部屋を訪室すると転倒している。

 

トイレへ行こうとしたとのこと。

 

立ち上がらせ、トイレ歩行する。

 

〇月〇日 

 

19:30 両膝打撲痛あり。

 

軽度発赤あるがVS著変なし。医師へ報告。

 

診察結果、経過観察となる。

修正が必要な場所

見たままを記載することが必要です。
憶測やあやふやな情報は書かないようにします。

 

@ 転倒発生前の状態について記録します。
  事故発生以前に患者さんの状態を観察している事実があれば、そのときの患者さんの状態を必ず記載します。

 

A 誰からナースコールがあったのかを記載します。

 

B 転倒を目撃した訳ではないので、憶測で「転倒している」と記載するのではなく、目撃した状況をありのままに記載します。

 

C 「トイレへ行こうとしたとのこと」と、要約するのではなく、患者さん自身の言葉による状況説明、目撃した人の発言もあればそのままを記載します。
  憶測ではなく、事実を記載し、情報があやふやであれば記載しません。

 

D 「軽度発赤」がどの部位の発赤なのかが不明です。観察した部位と観察内容を記載します。
  患者さんは、「多分どこも怪我をしていないと思います」と話していますが、不明瞭な発現です。
  同室の患者さんによる「うつぶせに倒れていた」という情報があるので、全身を観察します。
  頭部打撲している可能性も含めた観察をして記載し、頭部打撲による頭蓋内出血の発生には時間がかかるので経時的な意識レベルの観察と記録が必要です。

 

E 「VS著変なし」と略さず、測定したり、観察したバイタルサインを記載します。
  疼痛は、スケールで記載すると時間経過後の変化が分りやすいです。

 

F 事故発生(発見)時間、バイタルサイン測定時間、医師への報告と診療時間を明確にし、時間の経過を追って記載します。

 

G 報告、診察した医師の名前を記載します。
  医師への報告内容についても記載します。

 

H 患者さんへ説明・指導した内容があれば記載します。

 

I この患者さんは、抗凝固薬を服用中であることから、出血しやすい傾向であることを踏まえて観察し、記録に残したいので、転倒後の歩行状態や打撲の状態、疼痛の増強があるかないか、内出血の広がりは歩かないかなどについても経過を記録します。

よい記載例

〇月〇日 
18:40 検温時、ベッド上に座りテレビを見ていた。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
19:00 3号室1ベッドのS氏よりナースコールあり。
S氏が「Tさんが転んでいます。」といわれる。
3号室を訪室すると、Tさんがベッドサイドの床に正座しているところを発見した。
どうされたかと訪ねると、T氏は「トイレに行こうと思ったら、スリッパがテーブルの足に引っかかって転んじゃった。
たぶん、どこも怪我していないとおもいます。一人で行けるとおもったんですけど、すみません。」と話された。
看護師の介助で立ち上がり、トイレ歩行。
S氏は、「Tさんのところから大きな音がしたので見たらうつぶせに倒れていたからナースコールを押した。」と話された。
 看護師〇〇

 

19:30 BP110/64mmHg、P78/分、四肢に内出血斑なし、擦過傷なし。
「膝がちょっと痛いかな。」といわれる。
疼痛スケール2/5。
両膝打撲による軽度発赤、圧痛あり。
前頭部腫脹なし。
瞳孔不同なく、左右とも3.0mm大、対光反射左右ともあり。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
19:45 当直医のB医師へ、オーバーテーブルにつまづき転倒し、両膝打撲痛があることを報告する。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
20:00 B医師が診察。
経過観察の指示あり。
本人へトイレ歩行時は必ずナースコールをすることを再度説明します。
また、痛みが増強したり、気分が悪くなったときは、すぐに知らせるよう説明します。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
22:00 本人よりナースコールあり。
看護師が付き添いトイレ歩行する。
「膝の痛みも大丈夫です。他にいたいところはありません。」と話される。
ふらつきなし、蛇行なし。両膝痛の増強なし。
疼痛スケール1/5。
両膝打撲腫脹なく、内出血斑の出現もなし。
 看護師〇〇

記載上の注意点

転倒は患者さんにとって、とても危険な事故です。
その記録は、後になって、医療訴訟の物的証拠となる可能性もあります。
転倒事故が発生下場合は、POSから経時記録に切り替え、憶測や推測で記載したり、記録の不足がないように注意します。
転倒時は、24時間継続した観察をし、転倒によって予測される出血などの症状についても観察をし記録をしておきます。
特にこの場合の患者さんは、抗凝固薬を服用している患者さんなので、
出血しやすい傾向があるため、しっかり観察し、経過を残しておくことが大切です。

 

* 疼痛スケールの例
0: 全く痛まない
1: ほんの少し痛い
2: もう少し痛い
3: もっと痛い
4: とても痛い
5: これ以上の痛みは耐えられないほど痛い