看護記録の書き方のキホン

看護記録の書き方の実例 術後せん妄による暴力行為発生

事例: 患者名 W氏 77歳 男性

 

疾患名: 肺がん

 

家族構成: 妻、長男夫婦と同居

 

性格: 「物静かで無口、気の弱い性格です。」と妻からの情報。
    「気が弱い、神経質なところがある。」と本人からの情報。

 

経過: 
3ヶ月くらい前から咳が出るようになったが風邪かと思い様子を見ていた。
一ヶ月くらい前から咳がひどくなり、一週間くらい前から息苦しさも感じるようになったため、近くの医院を受診しX線撮影。
X線撮影の診断結果、左肺に陰影が認められ、手術目的で入院となる。

 

インシデント発生状況:
〇月〇日9時から左肺切除術を施行。
15時に病棟へ帰室する。
麻酔の犯覚醒で声かけに「はい」と返答あるが、すぐに閉眼する。
術後のバイタルサインは安定していた。
右手に末梢点滴ルート一本、胸腔ドレーン挿入中。
術後1日目の午前中、看護師がトイレに行く際の胸腔ドレーンの取り扱いについて説明する。
「なんとなくわかりました。」と不安な様子が見られた。
その後も、点滴や胸腔ドレーンをさわって不安な様子を見かけ、
声かけをするも「わかりました。」と、穏やかに話されるが、不安な様子。
夜間巡回時、「なかなかねむれない。」と話されるが、眠剤は希望しなかった。
術後2日目の日中、看護師をみかけると「この管大丈夫かな。」と話しかけ、
点滴やドレーンをさわっていた。
22時、時折部屋の中を見回し、胸腔ドレーンをさわる動作あり。
看護師が声をかけると、「大丈夫だよ、うるさいな。」と話される。
23時、叫び声が部屋から聞こえるため訪室した。

悪い記載例

〇月〇日 
20:00 入眠中

 

〇月〇日
23:00 うなり声が病室から聞こえるのでY氏がいる205号室を訪室。
ベッドの上に座って点滴を噛みちぎり、血だらけになって点滴を手に持っているところを発見。
どうしたのか声をかけると「うるさい、変なものがあるんだ。」と叫んで看護師をにらみつけている。
しかも、言動がおかしい。
手や顔、寝巻きが血だらけになっているため、きれいにしようとするが「さわるな。」と手を払う。

 

すごく興奮していて、近づくのが躊躇われるほど。
しかし、危ないので点滴をとろうとするとアザができるくらい強くつかんで、
「しつこいんだよ、ばかやろう」といって肩を2回強く叩く。
手を離そうとしたらひっかかれた。

 

腕が痛く、赤く腫れる。

 

なんとか点滴だけ取り上げて危険なため退室する。
医師に「点滴をちぎっちゃっておかしくなっている」と報告する。

 

点滴のルートを確認するため触れようとすると、
「ばかやろう」といい、拳で看護師を叩き爪をたてた。
何とか点滴刺入部の止血を確認し退室する。

 

23:30 訪室すると表情が少し穏やかになっているが、
手をさわろうとすると「さわるな」と叩こうとして変なのは変わらない。

 

医師の指示によって、サイレース(フルニトラゼパム)滴下する。

 

サイレース滴下するがなかなか入眠しない。
近づくと、また、看護師を叩こうとする!
危ないので手をおさえようとすると「ぶんなぐるぞ」と拳を持ち上げ、看護師をにらみつける。

修正が必要な場所

@ 「点滴を噛みちぎった」というのは、根拠のない断定表現です。
  事実のみを記載し、根拠のない憶測や推測は記載しません。
  事故の発生状況が見える看護記録が大切です。

 

A 「看護師をにらみつけている」というのは、感情が先行した記録であり、客観的ではありません。
  記録は客観的に記載します。

 

B 「しかも言動がおかしい」というのは、個人の人格が否定されています。
  個人の人格を尊重した記録をします。

 

C 「きれいにしようとする」は、看護実践記録なので、専門用語を使用して記載します。

 

D 「あざができるくらい強くつかんで」というのは、暴力の現象は分りますが、発生状況が記録からはわかりません。

 

E 誰が読んでも適切と思われる記録を記載し、情報が開示される事も意識して記録することが大切です。

 

F 暴力の発生状況は、労働災害の申請の際にも重要です。詳細な記録が求められます。

 

G 客観性がなく、誤解を招きやすい表現はしません。

 

H サイレース(抗不安薬)を使用する際は、なぜ使用するのか、誰にでも分る記録をします。
  単位は、mgで具体的に記載します。
  *サイレースなど、副作用として呼吸抑制を発症する可能性がある薬物を使用したときは、観察の記録をすることが必要です。

 

I 「また叩こうとする」、「危ない」という表現は、看護師の主観的な感情による記載になるので避けます。

 

J 「!(感嘆符・エクスクラメーションマーク・ビックリマーク)」は、看護記録には記載しません。

良い記載例

〇月〇日 
22:00 入眠中
 看護師〇〇

 

〇月〇日
23:00 うなるような声が病室から聞こえるため205号室へ訪室。
W氏がベッド上に座り、口に血を付着させ、手には三方活栓の辺りから切断されている点滴ルートを持って血だらけになっているところを発見する。
胸腔ドレーンは挿入されており、位置も良好。
どうしたのか、声をかけると「うるさい、変なものがあるから取ったんだ。」と大きな声で話し、
看護師を鋭い眼光で見つめている。
消灯前は穏やかな表情だったが、言動も別人のようになっている。
手や足も血が付着している。
タオルで拭こうとすると「さわるな」と看護師の手を払う仕草が見られる。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
23:10 手に持っている点滴のルートの切断状況を確認するため触れようとすると、
看護師の上腕を強くつかみ「ばかやろう」と言い、
右肩を2回こぶしで強く叩く。
手を離そうと試みると、看護師の上腕に左手の第2指と第3指の爪を立てた。
看護師の上腕発赤あり、みみず腫れ(膨疹)になった。
患者の点滴刺入部の止血を確認し、興奮状態のため退室する。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
23:20 A医師にW氏が点滴ルートを口で切断し、興奮状態であること、
看護師に対し暴力行為があったことを報告する。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
23:30 訪室すると少し症状が穏やかになっている。
もう一度点滴刺入部を確認しようと看護師が手を近づけると「触るな」と大きな声を出し、払いのける言動が見られる。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
23:35 A医師がW氏を診察。夜間せん妄と判断し、サイレース2mg+生理食塩液100mlを滴下し、入眠したら中止するよう指示をうける。
明日の状況で神経科にコンサルタントすることとなる。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
23:45〜23:50 サイレース2mg+生理食塩液100ml滴下を開始。
触ると興奮するため、モニタ装着できないことから、観察しながら滴下する。
R26.
呼吸抑制なし。
W氏は、看護師から目を離さず、目があうと看護師を叩こうとする動作あり。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
24:00 看護師から目を離さず、目があうと看護師を叩こうとする動作あり。
「ぶんなぐるぞ。」と大きな声を出す。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
00:15 訪室すると、うとうとしている。
R24.呼吸抑制なし。
チアノーゼなし。
SpO2 98%。
手を触れると、「うーん」と寝返りを打つ。
 看護師〇〇

 

〇月〇日
00:30 R22、SpO2 98%。
入眠する。
呼吸抑制なし。
心電図モニターを装着。
サイレース2mg+生理食塩液100mlを残15mLで中止し、医師に報告する。
 看護師〇〇

記載上の注意点

医療者は、せん妄や不穏など疾患に起因した事象で暴力行為が発生していると考えられる場合、
「病気によるものだから仕方ない」と記録にも残さないことが多くあります。

 

ですが、暴力行為には、潜在的な原因が潜んでいることも多く、
今後の患者さんへの対応にも結びつくため、事実を客観的に記載することが大切です。

 

記録は、看護師の主観的な感情表現で記載しないようにします。

 

暴力発生時、医療者が怪我をした場合などは、
労働災害申請時に、重要な情報となります。
詳細に、客観的に記載します。

 

暴力の発生状況が見える看護記録を意識して記録し、
患者さんの変化を客観的に記録します。

 

主治医が見て、状況を共有できる記録を目指します。

 

患者さんの状態によって、基準にのっとったケアができないときには、その理由を記録に残すようにします。