在宅看護における吸引の援助について
- 吸引とは
- 吸引は、体位変換がしにくいなど、痰を喀出できない患者さんに対し、
上気道にたまっている分泌物を吸引機を使用して吸引して排出し、
気道の閉塞を防ぐものです。痰を気管上部に移動させた後、吸引で喀出させる事もあります。
吸引には、「口腔内吸引」、「鼻腔内吸引」、「気管内吸引」などがあります。
- 口腔内吸引・鼻腔内吸引
- 口腔内吸引・鼻腔内吸引には、吸引カテーテル、ウェットティッシュまたはアルコール綿(カット綿)、
吸引器、消毒液、ディスポーザブル手袋、
ペットボトル容器2本(吸引カテーテルの内腔を洗浄するための水道水をいれるもの・使用後の吸引カテーテルを入れる消毒液を加えた水を入れたもの)を準備します。
口腔内吸引・鼻腔内吸引の手順
まず、患者さんに口腔内吸引・鼻腔内吸引の目的や手順を説明し、必要な物品を準備し確認します。
- 十分な手洗いをします。
- 排痰方法に準じて、痰がたまっている部位を聴診器で聴取し、タッピングやスクイージング、バイブレーションを行います。
- ディスポーザブル手袋を装着します。
- 利き手で吸引カテーテルを持ち、もう一方の手で吸引器のチューブを持って接続します。
- 吸引器のスイッチを入れて、ウェットティッシュを持ちます。
- 吸引カテーテルをウェットティッシュで拭いて水を吸います。この時、吸引圧が300〜400mmHgであることを確認します。
- 口腔内は、痰が貯留しているところまで吸引カテーテルを挿入し、カテーテルの空気孔を防ぎ、分泌物を吸引します。
(または、折り曲げているカテーテルを開き、分泌物を吸引します。)
鼻腔内は、カテーテルを鼻翼〜耳朶(10〜15cm)まで挿入し、カテーテルの空気孔を防ぎ、カテーテルを回しながらゆっくり分泌物を吸引します。
(または、折り曲げているカテーテルを開き、カテーテルを回しながらゆっくり分泌物を吸引します。) - 吸引後は、カテーテルを一回ずつウェットティッシュで拭き、水分を吸って洗浄します。
- 終了後、呼吸音を確認し、使用物品の片づけをし、手洗いをします。
- 鼻腔内にカテーテルを挿入した時、先端が当たったら角度を下に向けると入りやすくなります。
- 無理に挿入したり、陰圧が高いと粘膜を傷つけて出血するので注意が必要です。
- 吸引前後に、十分な深呼吸を促します。
- 一回の吸引時間は、10〜15秒以内にします。
気管内吸引
気管内吸引には、吸引カテーテル、滅菌手袋、消毒用ガーゼまたはアルコール綿(カット綿)、
精製水、消毒液、吸引器、必要時にネブライザーを準備します。
排痰方法に準じて、痰が貯まっている部分を聴診器で聴取し、タッピングやバイブレーションを行います。
- 十分な手洗いをします。
- 吸引かテーテルと吸引器のチューブを接続します。
- 利き手に滅菌手袋を装着し、滅菌手袋の空き袋の内側にアルコール綿を置きます。
- 手袋をしていないほうの手で接続した吸引カテーテルの上部を持ち、滅菌手袋を装着しているほうの手で消毒液につけてある吸引カテーテルを取り出します。
- 手袋をしていないほうの手で、吸引器のスイッチを入れます。
- 滅菌手袋を装着している手でアルコール綿を持って吸引カテーテルを拭き、手袋をしていないほうの手でカテーテルの空気孔を防ぎ、精製水を吸って洗浄します。
空気孔のない吸引カテーテルを使用する場合は、そのまま精製水を吸って洗浄します
(陰圧。このときの吸引圧は、成人の場合で200〜300mmHgであることを確認します。また、人工呼吸器を装着している患者さんに対して行う時には、吸引後、手袋をしていないほうの手で人工呼吸器を外し、外した人工呼吸器の先は、警報音を鳴らさないようにするため、テストラングに接続します。 - 吸引カテーテルを気管口(15cm前後)に挿入し、痰が貯まっているところでカテーテルの空気孔を防いでカテーテルを回しながらゆっくり分泌物を吸引します。
(または、折り曲げているカテーテルを開き、カテーテルを回しながらゆっくり分泌物を吸引します。)
また、人工呼吸器を装着している患者さんに対して行う時には、吸引後、手袋をしていないほうの手でバッグバルプマスウを気管口に接続し、呼吸に合わせてバッグパルプを加圧します。 - 吸引を一回するごとにアルコール綿でカテールを拭き、精製水を吸って洗浄します。
- 吸引をするごとに深呼吸を促し、必要時には手袋をしていないほうの手でタッピング法やバイブレーションを行い、咳嗽を促します。
- F〜Hを数回繰り返して行います。
- 呼吸状態を観察し、呼吸音を聴取します。
- 体位を整えます。
- 気管切開部のガーゼが汚れている場合は消毒して交換をします。
- 使用物品を片付けて、手洗いをします。
- 吸引前に十分な深呼吸を促します。
- 気管内吸引を行う際は、細菌が直接気管内に入りやすいので、無菌操作が必要です。
- 一回の吸引時間は、10〜15秒以内にします。
- 吸引をするとき、痰が貯まっている部位に到達したら(ズルズル音がしたら)、そこで挿入をやめ、ゆっくりと丁寧にカテーテルを回しながら痰をひきます。
- 吸引途中でタッピングやスクイージング、バイブレーションを行う時には、吸引カテーテルが不潔にならないように、カテーテルを丸めておきます。
- 排痰を行っても痰がでない場合は、しばらく患者を休めてから再度試みます。
日常生活の指導
痰が粘稠にならないよう、水分補給を促します。
ネブライザーを使用し、乾燥する時期には加湿器も使用します。
深呼吸の練習を促します。
口腔ケアを実施します。
吸引前に飲水やタッピング、体位ドレナージなどをして、なるべく痰を取りやすい位置に移動させておきます。
吸引操作は、医療従事者に限られていましたが、現在は条件付でヘルパーでも出来るようになっています。
必要な場合は、ヘルパーと連携して安全な吸引を行います。
緊急時の対応
痰つまりをう想定し、顔色の観察やチアノーゼの有無、呼吸状態、意識レベルの観察、
酸素飽和度測定、血圧測定を行います。
タッピングをしながら直ちに吸引しますが、
気管切開をしている患者さんの場合は、吸引しすぎることに集中しすぎると
肺胞の虚脱を起こすことがあるので注意します。
吸引後、酸素飽和度が上昇するか、呼吸状態の改善があるかどうかを観察します。
ネブライザーや排痰法を行いながら、吸引を続けます。
訪問看護師や医師に連絡をし、指示を受けるようにしておきます。
その他
排痰を行ってもどうしても痰がでない場合もあります。
その場合は、痰が硬いため、肺から気道に移動していないと考えられるので、
水分補給をし、体位を変換します。
患者さんの体力消耗を防ぐために、しばらく時間を置いてから再度挑戦します。
鼻から吸引をした場合、出血が起きることもあります。
鼻の粘膜は弱いので傷付きやすいため、優しく吸引チューブを挿入すること、吸引圧を下げることが必要です。
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